2023年夏、長年トッテナムのゴールを守ってきたウーゴ・ロリスに代わり、新たな守護神としてチームに加わったのがグリエルモ・ヴィカーリオである。
加入当初はその実力に不安の声もあったが、現在ではトッテナムの正GKとしてしっかりとポジションを確立している。
本記事では、ヴィカーリオのプレーデータや映像分析をもとに、彼の強み・課題・GKタイプを紐解きながら、ロリス時代との違いについても掘り下げていく。
ヴィカーリオの基本情報と経歴
まずは、ヴィカーリオの基本情報とこれまでのキャリアを簡潔に整理する。
■ 基本情報
生年月日:1996年10月7日
身長:194 cm
国籍:イタリア
ポジション:ゴールキーパー
利き足:右
■経歴(主なステップ)
・2013–14年にウディネーゼでプロへ
・その後、複数クラブへのローンや移籍を経験。主にヴェネツィアやカリアリ、エンポリでプレー
・2023年夏にトッテナムへ加入し、現在は同クラブで正GKを務める
ヴィカーリオのプレースタイル|反応速度×カバーリング×足元技術を兼ね備えたGK
ショットストップ能力の高さ
ヴィカーリオの最大の武器は、圧倒的なショットストップ力だ。
下記はFBREF(https://fbref.com/en/)のヴィカーリオのデータである。

このデータからわかるのは「PSxG-GA」が一番高く、2番目に「PSxG/SoT」が高いことだ。
■ PSxG-GAとは
これは、「本来なら何点取られていてもおかしくなかったか」と「実際に取られた失点」
の差を表す数字である。
数字がプラス:本来入ってもおかしくないシュートを止めた
数字が マイナス:止められる可能性があったのに止められなかった
つまり、「GKがどれだけセーブでチームを救ったか」が分かる。
■ PSxG/SoTとは
これは、「GKに向かってきたシュート1本が、どれだけゴールになりやすいか」を示す数字である。
数字が 高い:難しいシュート(止めにくいシュート)が多かった
数字が 低い:比較的止めやすいシュートが多かった
これら2つの数値はセットで見ることが重要だ。
PSxG/SoTが高い → GKは難しいシュートを多く受けている
PSxG-GAも高い → それでもちゃんと止めている
この2点から、ヴィカーリオは「反応速度が速く、シュートストップ能力に優れたGK」だと評価できる。
裏のスペースを守る“カバーリング能力”
次にDateMB(https://datamb.football/)のデータから、ヴィカーリオの強みや特徴を見ていく。

このデータでは、ヴィカーリオのパフォーマンスをアリソン、ドンナルンマ、ラヤの3選手と比較している。
その中で、ヴィカーリオはInterceptions(インターセプト)で96%という非常に高い数値を記録しており、アリソンにはやや劣るものの、他のトップGKと比較しても非常に優れた数値を示している。
この数字は、ヴィカーリオが単にゴール前でシュートを待つだけでなく、ペナルティエリアの外まで積極的に飛び出し、スルーパスなどを未然にカットしていることを意味する。
つまり、彼は高い予測力と的確な判断力を持ち、味方DFの背後をカバーする役割を積極的に果たしているといえる。
ショートパスの精度の高さ
DataMBのデータから、ヴィカーリオはパス成功率(86.8%)とショートパス(64.9%)が非常に高いことも分かる。
この数値は、彼が足元の技術に優れ、ビルドアップに積極的に関与できるGKであることを示している。
ショートパスを多用しながらも高精度のパスを供給できる点は、後方から丁寧にボールをつなぐスタイルのチームにとって重要な要素だ。
特にポゼッションを重視するチームにおいては、GKが最初のビルドアップの起点となる場面が多く、ヴィカーリオのようなGKは戦術面でも大きな価値を持つ存在といえる。
ヴィカーリオのプレースタイルにおける課題|空中戦とセットプレー対応の弱点
クロス対応(空中戦)の安定感不足
これは先ほど紹介した DataMBのデータである。

このデータから分かる通り、ヴィカーリオは空中戦勝率(Aerials won)が「18.5」という低い数値を記録している。
この数字は、クロスボールやセットプレーなど、空中での競り合いに課題があることを示している。
特にプレミアリーグのように、クロスの質が高く、フィジカルの強い選手が多い環境では、GKにとって空中戦での安定感は非常に重要な要素だ。
ヴィカーリオは、この点でまだ安定感を欠く場面が見られ、相手選手と競り合う中で強く体をぶつけられると、キャッチやパンチングの処理が不十分になるケースもある。
セットプレーでのフィジカル対応
ヴィカーリオのもう一つの課題は、プレミアリーグ特有の激しいセットプレーへの対応力である。
特にコーナーキックやフリーキックの場面では、相手選手とのぶつかり合いが非常に激しく、バランスを崩すシーンが見られる。
また、意図的なブロックや妨害によって動きが制限され、パンチングで処理するかキャッチに行くかの判断が遅れるケースもある。
このような場面では、判断の一瞬の遅れがそのまま失点につながるリスクを伴うため、フィジカルコンタクトへの対応力や空中戦での安定感の向上が今後の課題として挙げられる。
最後に、ヴィカーリオの強みと課題をまとめると下記のようになる。
強み
・ショットストップ能力の高さ
・裏のスペースを守る“カバーリング能力”
・ショートパスの精度の高さ
課題
・クロス対応(空中戦)の安定感不足
・セットプレーでのフィジカル対応
ゴールキーパーの種類を4タイプに分類|特徴を分かりやすく解説
次にゴールキーパーを4つのタイプに分類し、ヴィカーリオがどのタイプに該当するのかを見ていきたい。
分類の基準は、横軸を「ビルドアップ能力」、縦軸を「セービング能力」とし、それぞれの能力の高低によって以下の4タイプに分けてみた。

■ 万能型GK
セービングとビルドアップの両面で高い能力を持つタイプ。どの戦術にも柔軟に対応でき、チームの土台となる存在。
■ ビルドアップ型GK
足元の技術に優れており、後方からの組み立てを担うタイプ。ショートパスやロングフィードで攻撃の起点となり、ポゼッション志向のチームに適している。
■ ショットストッパー型GK
反応速度や1対1の対応力に優れたタイプ。至近距離のセーブに強く、守備重視の戦術で真価を発揮するゴールキーパー。
■ ベンチ型GK
セービング、ビルドアップの両方が平均的な水準にとどまるタイプ。突出した強みが少なく、多くの場合セカンドキーパーとして起用される。
ヴィカーリオのGKタイプをプレースタイルから分析|なぜショットストッパー型なのか?
では、ヴィカーリオはどのタイプなのか。
ヴィカーリオのプレーデータやプレースタイルから判断すると、「ショットストッパー型GK」に分類するのが最も自然に感じられる。
その理由は主に以下の2点だ:
・シュートストップ能力の高さ
→ 「PSxG-GA」の数値非常に高く、これは難しいシュートを止めている証拠であり、反応速度や1対1の場面での強さが際立っている。
ビルドアップ能力は“ショート寄り”
→ パス成功率とショートパス率は非常に高い一方で、ロングパスの数値は比較的控えめ。
これは、足元の技術はあるが、ロングフィードで攻撃を展開するタイプではないことを示している。
つまり、ヴィカーリオはセービング能力に優れる一方で、攻撃の起点として長距離の配球を担うスタイルではない。
このような特徴から、「ショットストッパー型GK」と評価するのが妥当だと言える。
ロリスからヴィカーリオへ何が変わった?ビルドアップ向上と新たな課題を解説
トッテナムでは、長年にわたりウーゴ・ロリスが正GKとしてゴールを守ってきた。
しかし、2023-24シーズンからはヴィカーリオがその座を引き継ぎ、新たな守護神となっている。
ここでは、「ロリスからヴィカーリオへの交代で何が変わったのか?」について見ていく。
最大の変化は、ビルドアップの安定感が大きく向上したことだ。
ロリスはシュートストップには定評があった一方で、足元の不安定さが課題とされていた。
強いプレスを受けた場面ではキックの精度が落ち、後方からの組み立てが中断される場面も見られた。
一方でヴィカーリオは、DataMBのデータからも明らかなように、パス成功率86.8%、ショートパス率64.9%と非常に高い数値を記録している。
これは、彼が足元の技術に優れ、後方からのビルドアップに積極的かつ安定して関与できるGKであることを示している。
この変化により、トッテナムはGKから安定して攻撃を組み立てられるチームへと進化したと言えるだろう。
一方で、不安点の“質”は変化している
ロリス時代の不安点
→ 足元の不安定さによるビルドアップの乱れ
ヴィカーリオ時代の不安点
→ クロス対応やセットプレー時のフィジカル面での対応力
このように、ヴィカーリオの加入によってビルドアップは安定したが、守備面では新たな課題も浮かび上がっている。
終わりに
ロリスからバトンを受け取り、トッテナムを支えるヴィカーリオ。
高いショットストップ能力を武器に、すでにチームにとって不可欠な存在となっている。
プレミア特有のフィジカルバトルへの対応という課題はあるが、その成長の先には世界トップレベルのGKという評価が待っているはずだ。
これからのヴィカーリオの進化に、ますます目が離せない。

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